DEN-WAシリーズ(2005〜)

『DEN-WA』シリーズでは、今ではすっかりアンティーク感が漂う存在になったレトロな旧式のダイヤル式電話機や、初期のテンキーしか装備してない初期のプッシュホンを素材として、インタラクティブ・インスタレーションを展開している。

2005年から始めたこの作品シリーズには現在、「Messages from Adam」(2005)、「Messages from Adam II」(2006)、「COMMANDER(2006)」、「LOVERS(2006)」などの作品がある。

DEN-WA(2006)トキ・アートスペース (東京)

DEN-WA(2006)トキ・アートスペース (東京)

 

COMMANDER(2006)CASO(大阪)

COMMANDER(2006)CASO(大阪)

 

LOVERS(2006)CASO(大阪)

LOVERS(2006)CASO(大阪)

 

Messages from Adam II(2006)CASO(大阪)

Messages from Adam II(2006)CASO(大阪)

昨今はすっかりデジタルの携帯電話が世の中の主流になったが、デジタル化が進む前の古いダイヤル式の電話機や、プッシュキーしか装備していないシンプルな初期のプッシュホンなどの電話機は、今ではすっかりレトロでアンティーク感が漂う存在になってしまった。
かつてはダイヤルを回すという操作は何の疑問も持たない電話のインターフェースのスタンダードであったが、現在では不思議な感覚があり、指でダイヤルを回す感触や回り終わるまでの待ち時間などが、温もりや奇妙な時間感覚を呼び起こす。

また、ダイヤルに必要なボタン以外に一切の余分なキーが無い初期のプッシュホンのデザインは、デジタル化や高機能化が進んだ現在のデジタル電話とは異なるシンプルな美しさが際立っている。こうしたオールメディアの電話機からイマジネーションを得て制作したのが今回のインタラクティブアート作品である。

こうしたレトロな電話には独特の表情がある。単なる機械なのだが、どこか人間らしいぬくもりの表情がある。よく観察していると電話が電話の顔に見えてくるし、受話器が髪や耳などに見えたり、ダイヤル盤やプッシュキーが顔の造作に見えてたりする。そんな電話の表情は作品のインスピーションとなった。
初期の電話にこうした温もりがあるのは、人と人をリアルタイムにつなぐ最初のコミュニケーションのメディアであったことも関係しているだろう。電話は小説やドラマ・映画などの世界では、重要な役割を演じる名脇役であり続けていた事実は忘れてはいけない事実だ。

面白いことに、マンガやアニメの世界に登場する電話では、必ずといってジリジリと電話が鳴ると受話器が踊るように動くが常である。現実の世界では受話器は実際には何も動かないにも関わらず、私たちのイメージには受話器は動くのが当然のような感覚が定着してきた。マンガやアニメの世界のイメージが現実を超えるような感覚となっていることは、非常に興味深い現象だと思った。
この作品では実際にマンガの世界でしかなかった受話器の動きを現実化してみることで、それを実際に見た人々がバーチャルとリアルのはざまの現象をどのように受け止めるのか大いに興味があり、それが制作動機のひとつにもなった。

これらの作品に実際に使用した電話機はすべて、インターネットオークションで一台ずつ落札したものであり、 これらにマイコンや電子装置を組み込む改造を施し、それぞれのテーマに沿ってインタラクティブ・インスタレーションとして構成・展開した。。
固定電話の時代からははるかに進んだインターネットという通信メディアを使用して、アンティークになった通信機器を入手するというパラドックスの中で、100台以上の電話機をオークションで手に入れるために、見知らぬ人と購入手続きのメールの会話をトラウマになるほどに重ねた経験は、時代がごちゃごちゃになるような不思議な感覚を呼び起こされ、いろいろ考えさせられた。そして、それもまた作品のひとつの背景となった。