ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングからインスピレーションを得たHyperKeyboardシリーズに続く作品シリーズである。
HyperKeyboardは鍵盤を直感的に押すことでピアノの即興演奏ができ、同時にそれに響くように呼応する視覚表現が伴う作品シリーズであった。聴覚的体験が対話的に行われ視覚体験へと結びつけられることで、聴覚感覚が大きく変わることがこのシリーズの特色であった。
このHyperKeyboardシリーズの経験を踏まえて、インタラクティブな創造行為の可能性として聴覚から視覚という方向だけではない様々な形態がありうることを自覚するようになり、続くInteraction Paintingシリーズでは絵を描くという行為そのものに焦点を当てることで、前シリーズとは逆に視覚体験が聴覚体験に結びつけられる作品を構想した。
ポロックはアクション・ペインティング という従来の絵画の描画形式とは全く異なる絵画技法を生み出し、その革新性から生み出される斬新な抽象的な絵画は世界的に知られるものとなった。
ポロックのアクション・ペインティングは大きなキャンバスを床に置いて、その上から絵具を垂らしていく描画方法が最大の特徴である。絵具のドロッピングは計画された視覚を再現するという意図は最小限に抑えられており、即興演奏のように重力と身体と対話しながらリアルタイムにキャンバスに描くという点が、私には自身のインタラクティブアートに非常に近い行為だと感じられた。そしてポロックを多方面から研究した。
ポロックのアクション・ペインティングの絵画作品は美術館などの壁にかけられて展示されるのが通常であるが、私は作品を床に置いた状態でポロックが制作中の感覚に近い状態でぜひ鑑賞してみたいと思った。また、完成した絵画も素晴らしいが、制作中の行為そのものが大変重要な作品に思えた。
ポロックは制作中の感覚を「絵画の中にいる」と表現したことがあるが、絵画のような視覚作品を自己と独立した客観的なモノとしての存在としてだけではなく、視覚作品と一体になれる可能性をそこに見いだした。
そのような思いから、ポロックがした絵を描くという行為そのものを創造体験としてのインタラクティブアートにしたいと思いInteraction Paintingシリーズは生まれた。
コンピュータのデジタル技術は利用するが、直感だけで即興的に絵画を描けるシステムを構築し、絵画と対話する場を生み出すことがこのシリーズの最大目標となった。
絵を描くという創造行為に伴ってそれに呼応する即興音楽が生まれるようにし、視覚的な創造体験の拡張も同時に行った。
ポロックのAction PaintingのAction(行為)のエッセンスをインタラクティブに展開するという意味でInteraction Paintingというシリーズ名をつけた。
Interaction Paintingには4種類のシステムのバリエーションがある。HyperKeyboardシリーズと同様に鑑賞者の体験そのものが作品であるという考えから、バージョンが違っていても同じシリーズ作品とし、展示ごとにカウントアップされるACTで作品はナンバリングした。
以下は展示を行った作品リストである。
Interaction Painting ACT1 1993年 イマジネーションミュージアム’93(科学技術館)
Interaction Painting ACT2 1993年 NeXPERIMENT’93(草月ギャラリー)
Interaction Painting ACT3 1994年 インタラクティブアート展(科学技術館)
Interaction Painting ACT4 1994年 双方向美術展(SAM MUSIUM)
1994年段階ではコンピュターの処理能力は現在に比べて大幅に低くて周辺機器も少なく、プロジェクターやセンサーなどのテクノロジーも比べ物にならないくらい低いものであったので、ACT4までで理想とする作品の質にまで完成されてはいないと考えている。
現在の発達した技術を利用することで、理想に近い作品を近い将来制作したいと考えている。